科学技術部会作成要請書第1本目、政府宛提出要請書38本目、平成元年12月提出 |
──国民のいのちとくらしを守るために── 「総合安全対策調査会」等の機関を設置して頂きたき要請 |
【要請書全文】
要 請 の 趣 旨
戦後わが国は科学技術の発達をバネとして発展してきており、資源小国の日本がこれからも世界の中で発展してゆくためには「科学技術の発展」が不可欠であります。わが国には現在も各種の科学的プロジェクトが設置され、科学的生産物が流通しておりますが、これからもますますそうしたプロジェクトや生産物が増加・流通するものと思われます。
かくして、科学技術は無限の可能性を秘め人間に多大の利益をもたらす反面、ひとたびそのコントロールを誤り、あるいは不慮の事故が突発するとき、逆に人間に恐るべき被害をもたらすことはこれまでの事例が示す通りであります。地震などの自然災害についてはすでに国土庁を中心とする対策が用意されておりますが、科学的プロジェクト生産物による災害については、おおむねそのプロジェクトや生産物を管轄する監督省庁にそ
の対策か委ねられるに止まり、災害ないし被害の発生に備えての総合的な対策が採られているとは思われません。
そこで、当団体は、国民の「いのち」と「くらし」の安全を確保するという観点に立って、現在および将来の科学技術的プロジェクト・生産物による災害について、官民の専門家からなる(仮称)「総合安全対策調査会」を設置して、こうした大事故を防止するための事前対策につき調査・研究するとともに、ひとたび事故が発生した場合には、迅速にかつ適切な措置を発動し被害を最小限に止める調査・研究、ならびに実施方法(例えば、国民生活の安全確保を総合的に管理・調整する行政委員会の設置など)を検討していただきたく、以下に具体的な理由を添え、ここに要請する次第であります。
要 請 の 理 由
科学技術プロジェクト・生産物から予想される大災害については、以下のように各種のものがあり、これらの理由からも、そうした災害を起こさないための調査・研究など事前対策と、事故・障害が発生した場合の迅速な対応策を実施できるよう、いわば、国民(ひいては世界人類)の生命と生活を守り、これらの総合的な安全を確保するため、まず(仮称)「総合安全対策調査会」を殷殷することが望まれる。
一、地球規模災害への対策。
地球規模災害としては、アフリカやブラジルを中心とする熱帯樹林伐採に伴うサバンナ化をけじめとして、世界各地域での樹林伐採が地球大気の炭酸ガス(二酸化炭素)の増加、すなわち酸素比率の低減をもたらし、 地球の温暖化を招くなど、人間をはじめとする地球生物全体の生存にかかわる問題として提起されており、
また、フロンガス使用による成層圏オソソ層破壊により紫外線の直射を生じ、これまた人類けじめ地球生物の存続に多大の影響を及ぼすことが問題となっている。
これらの問題については、欧米の先進国から問題提起がなされ、国際会議が開かれるようになったが、こうした問題こそ、経済大国・科学大国として、日本が率先提起し、世界に先駆けて解決策を提示すべきであり、他国から問題提起されてからあわてて追随するのではなく、日頃からこうした地球規模問題も検討しておくためにも「総合安全対策調査会」を設置する意義がある。
二、原子力発電所対策と原子力に代わる新エネルギーの開発。
原子力発電は、人類に多大のエネルギーを提供したが、他面、アメリカ・スリーマイル島原発事故、あるいはソ連・チェルノブイリ原発事故にみられるように、万一事故発生の場合は、放射能による恐るべき災害をもたらす。こうした事故は、広範囲かつ永続的に、しかも生物の遺伝子にも影響を及ぼすだけに、平素からの徹底した事故防止策が必要であり、かつ事故が発生した場合の迅速な措置と災害の極力抑止策を総合的に検討しておく必要がある。
また、これまでに造られた原子力発電所も物理的に耐用年数が来ており、放射能を帯びている原子炉をはじめとする諸施設を、どう処理して再建するか検討することも重要な課題であり、また、原子力に代わるエネルギーの開発についても、いまから組合的・具体的な対策を考えておく必要がある。
三、航空機・新幹線・船舶・高速道路などの交通に関する大事故対策。
ジャンボジェット、新幹線鉄道、大型フェリー等の交通機関は、近代文明社会を象徴する無くてはならない重要な交通手段であるが、一たび事故が発生したときは、その高速性能と大抵輸送性から、事故の被害もまた大であることは、時に報道される高速道路での衝突事故、トンネル内衝突火災、さらには、日航機の御巣鷹山墜落事故などでも明らかである。
こうした既存の事故に限らず、まだ大事故は発生していないが、新幹線、大型フェリーの事故、さらには青函トンネルや本四架橋など大型プロジェクトに何らかの大事故が起きた場合の総合対策は、いまから各種場合を想定して、充分に検討しておく必要がある。また、船舶の衝突事故、そして、それに伴う重油など燃料の大量流出の総合対策も必要である。
なお、一時に五百名の人命が失われるジャンボジェット機事故は大騒ぎになるが、自動車事故をはじめとする一般交通事故も、年間、一万人前後が亡くなり、80万人前後が怪我をしている現況を認識して、より総合的な対策を立てる必要がある。
四、石油、その他化学プラントの大爆発・大火災などへの対策。
石油精製基地、あるいは各種化学プラントの大爆発・大火災などの対策も重要で、国土の狭いわが国では、ひとたび大爆発・大火災が起これば即、住民への被害をまぬがれず、特に、石油や化学薬品は消火しにくく、有害ガスなども発生して人体への悪影響も強い。これについても、各地域の施設ごとに、総合的な事前・事後対策か必要である。なお、プラント火災ではないが、最近の東京都江東区の高層ビル火災のように、大都市に林立する高層ビルの火災は、従来の消火活動の次元を超えた問題を提起するので、これらの対策も別途研究されなければならない。
五、その他、各種の産業災害への対策。
現代の産業は多種多様化しており、新機軸・新素材も多い。例えば、近年、重金属や半導体ガスなどの使用も増えており、もし、こうした物質が流出した場合には、想定を超えた深刻な被害か発生する恐れがある(水俣病の被害などを想起)。したがって、大事故が発生しない前に、いまから充分な事前対策と事後措置を検討しておく必要がある。
六、医薬・食品公害、あるいは、バイオテクノロジー・遺伝子工学への対策。
医薬:賞品については現在、厚生省が担当しているが、医薬・食品の質・量が多様化・多量化している今日、厚生省だけに責任を負わせるのではなく、化学調味料をけじめ各種食品の安全性、その重複摂取の弊害、また、医療措置の合理性検討、薬の複合摂取の弊害(高齢者の中には、医師から沢山の種類の薬を貰っているケースが多い)等々、大局的・総合的見地から、国民の「いのち」と「くらし」の安全性をチェックする
必要がある。
なお、バイオテクノロジー、遺伝子工学についても、安全性の総合チェックが必要である。
七、各種大事故に伴うパニック状態への対応策。
なお、前記の事故、特に、原子力発電所や化学プラント爆発、新幹線・航空機事故、さらに大地震の場合などに、これに伴い人々がパニック状態に陥り、その措置を誤るときは、重ねて二次災害、三次災害へと発展して、想像以上に被害が拡大することも予想される。こうした事態に備え、日頃から総合的な対策を練り、迅速な措置がとれるよう検討しておくことも、大切な課題である。
以上、各種の事態を考える時、私どもは、国が、まず(仮称)「総合安全対策調査会」というような調査会を早急に設けて、調査・研究に当たるとともに、その対策が迅速に実施されるよう、いわば「国民生活の″いのち″と”くらし”の安全確保を、総合的に管理・実施しうる行政委員会」のようなものを、内閣に設けていただく必要があることを痛感し、ここに要請いたした次第であります。