教育部会作成要請書第20本目、政府宛提出要請書36本目、平成元年3月提出
日本人の心・情操・人間性を育成するための教材についての要請

【要請書全文】


要 請 の 趣 旨


わが国は、物質面・技術面では驚異的な発展をなし遂げましたが、反面、人間性・精神面での貪困さが目立 ち、いまや「物で栄えて、心で滅びる」現象が憂えられております。
 こうした教育面・精神面の荒廃の原因は多々ありましょうが、私どもは是正のための基礎として、教材(教 科書、副読本、その他の教材。以下総称して教材という)の見直しが重要であると考え、これを以下の理由に 詳述するように、一、民話・おとぎ話・ことわざ。二、心に残る童謡・小学唱歌。三、神話・祭り・宗教行事。四、国土の美しさ。五、伝統文化・文化遺産・業績の五つの面に分け、それぞれ、現在の教材に欠けている点を具体的に指摘し、これらを家庭教育・幼児教育・児童生徒教育・生涯学習の教材へ採り入れることによって、日本人の心・情操・人間性を養っていただきたく、ここに、要請する次第であります。


要 請 の 理 由


一、民話・おとぎ話ことわざ等を教材へ
 歴史の古い国では、風土・習慣・生活の中で培われた「伝承文化」が存在し、それらには国民の情感・願望 教訓などの所謂「国民性」が織り込まれているのが普通であります。
 わが国にも、古くから伝えられてきた民話やおとぎ話・童話が数多くあり、過去においては、それらが、親 から子、家族、友達の間で語り継がれて、親子のつながり(愛)や躾として家庭教育面で効果を挙げ、また、 それらが教材として使われたことから、児童の情操や徳育の面でも役立ってまいりました。
 しかるに、戦後の占領政策以後、古い伝統的なものはすべていけないとする風潮があって排除された結果、 幼児・児童の教材の中から、例えば、桃太郎、浦島太郎、一寸法師、さるかに合戦、舌切り雀、こぶとり爺さ ん、花咲か爺などの民話・おとぎ話、あるいは、いろはかるた、さらには、昔からの各種のことわざ、などが 削られてしまいました。
 これらは、非現実的・非近代的であるとか、鬼などの蔑視思想があるとか、合戦など戦闘場面がある、とか の理由によって排除されたものですが、いまのテレビで殺人場面が沢山でてくることに比べれば、これらはい ずれも幻想的・情感的なものであり、こうした民話やおとぎ話、昔からのかるた・故事・ことわざなどは、わ が国の伝承文化として、日本人の心や情操を養うのに必要なものと考えられますので、今こそ、占領体制下の 偏った認識を払拭していただき、こうした内容のものを、家庭教育・幼児教育・児童生徒教育・生涯学習の教 材として、採用・奨励していただきたく、お願い申し上げます。

二、心に残る童謡・小学唱歌を教材へ
 現代の生活は、物質文明の洪水に押し流されているせいか、いじめ・校内暴力や登校拒否、あるいは、衝動 的・残虐的な事件があとを断たず、日本人は、思いやり・温もり・やさしさなどの心情・情緒を忘れてしまっ たようです。
 昔は、古くから唄われた詩(うた)、小学唱歌などがあって、そうした「心に残る詩」が情操教育に随分と 役立っていたように思われます。
 しかるに、そうした「心に残る詩」も、敗戦後の価値観に排除された結果、例えば、
 イ、自然の詩………春がきた、春の小川、雨、夕焼けこやけ、秋、雪やこんこん、四季
 口、生活の詩………しゃぼん玉、背くらべ、われは海の子、まりと殿様、金剛石
 ハ、動植物の詩……赤とんぼ、どんぐりころころ、小菊、すずめの学校
 ニ、行事の詩………七夕、村祭り、お正月、ひな祭り、鯉のぼり、日の丸の旗
 ホ、おとぎの詩………浦島太郎、金太郎
 へ、歴史の詩………那須与一、水師営の会見
などが削られてしまいました。
 これらは、言葉が分かりにくくなっているとか、身分の差別があるとか、戦争の状況が入っているとかの理 由で排除されたわけですが、名曲であり、それぞれの時代の情緒をよく表しておりますので、そろそろ戦争直 後の価値観を払拭して、これらの詩(うた)を、家庭教育・幼児教育・児童生徒教育・生涯学習の教材として、見直し、復活して下さるよう、お願い申し上げます。

三、神話・祭り・宗教行事を教材へ
 文明発祥の地ギリシャに多くの神話があるように、ヨーロッパ諸国をけじめ歴史の古い国々では、いずれも 神話・伝説を持ち、また、それを教材として用いております。原始社会や古代国家においてシャーマニズムは 自然の成り行きであり、現代が高度の文明社会だからといって、これを非合理的として否定し去ることは、か えって文化・伝統・情緒などの国民性を破壊してしまいます。
 わが国では、連合軍による占領下、精神主義の鼓吹に使われたとして、神話伝承がすべて教材から排除され ましたが、神話伝承の誤った利用はいけないとしても、神話伝承を正しく伝えることは、文化・伝統・情緒な どの国民性を養い、後世に伝えるため必要なことです。
 その点からも、日本の国生み神話、神武天皇や日本武尊の建国神話、皇位継承と三種の神器の伝承などは、 教材に採り入れるべきだと思います。
 また、宗教行事や祭りも、上述のように、集落や村が発生するとともに生まれるものであり、それは長い年 月を経て、宗教性を脱して、地域行事・民族行事・風習として「伝承文化」となるものであります。
 戦後は、政教分離ということを誤って解釈したために、地鎮祭、山開き・海開きの行事、暮の大祓い、お正 月の初参り、七五三のお参り、などの意味が教えられておりませんが、外国では、その国のそうした風習を、 宗教の布教とは関係なく、伝承文として教えておりますので、わが国も、この辺で戦後の行き過ぎを改め、教 材に採り入れて下さるようお願いいたします。

四、国土の美しさを教材へ
 国土の自然は、そこへ住む人の心情を形成し、その国民性を培う土台となることは、すでに周知のところで あります。わが国は、春、夏、秋、冬の四季の変化に富み、山、川、海を採り込んだ田園風景や風光明媚な景 色に恵まれ、それが情緒豊かな国民性とこれに伴う文化を育ててまいりました。
 ところが、戦後の教材には、日本三景、すなわち、天の橋立、松島、厳島の美しい描写・紹介もなく、国立 公園、例えば、瀬戸内海、雲仙天草、霧島、中部山岳などについての記述もあまりありません。これでは、美 的情操を養うことに欠け、国土・自然を愛する心を養うことにも欠けますので、こうした目本の国土の美しさ を教材へ採り入れるよう、御配慮をお願いいたします。

五、伝統文化・文化遺産・業績を教材へ  わが国は歴史が古いだけに、その国土・自然・情感・歴史を土台に、世界へ誇り得る多くの文化、あるいは文化遺産を有しております。
 しかるに、戦後の教育では、国家や歴史をタブーとした影響をいまだに受けて、そのような文化・文化遺産・業績を教えることが少なくなっております。いま、全く教えていないもの、不十分なものの例を挙げます。
 水墨画(雪舟など)、浮世絵(北斎、広重など)、俳句(一茶、藤村、芭蕉など)、和算(関孝和)、仁徳天皇陵、東大寺(大仏建立)、正倉院、伊勢神宮、法隆寺、出雲大社、あるいは、近藤重蔵、間宮林蔵らの業績とか、箱根用水や十和田湖養魚の業績などがあります。
 これらの文化・文化遺産・業績は、今日の日本の基礎となり、国民性に貢献し、諸外国からも高く評価され ているものです。いま、よく「国際性」と言われますが、自国の文化を理解しないで、他国を理解することは できません。右に挙げた事柄も、単に名称を挙げるにとどまらず、その内容を十分理解させるよう、教材で取 り上げて下さるようお願いいたします。

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