教育部会作成要請書第12本目、政府宛提出要請書26本目、昭和62年2月提出 |
「教科書の在り方」に関する要請 |
【要請書全文】
教育は、国家百年の大計である。教育は、その国の文化遺産と伝統を継承し、国際的視野を養いつつ、これを将来に発展せしめることにあり、その際、教科書の果たす役割は、極めて大きい。故に、私たちは、「日本人としての国民意識の育成」に視点を当てて、次のような諸点につき改革を提案する。
一、教科書一般についての提言
1、自国を卑しめ、歴史・伝統を否定することを止め、日本の文化や伝統に誇りを待たせるようにする。
戦後の教科書や教育現場では、連合国の占領政策をそのまま受け継いで、わが国の過去の歴史や国際関係はすべて日本が悪いのだ、歴史的・社会的伝統も否定すべきだとの傾向が強い。戦時中の「日本のみ尊し」とする考え方はもちろん排すべきだが、現在の「国民の誇りを失わせる教育」は早急に見直さなければならない。
2、人物の業績や人となりを顕彰するものを、もっと教育内容に盛り込むべきである。
人間すべてよい面ばかり持っているわけではないが、人間の善性を引き出すのが教育であるから、過去に良いことをした人、勇気や信念をもって行動した人の業績や人となりを顕彰することは、青少年に目標を持たせるとともに、現在の無味乾燥な教科書に血を通わせ、勉学に興味を持たせることにつながる。
3、世界に聞かれた日本人の養成をめざすよう改める。
「聞かれた日本人の育成」と言われるようになって久しいが、いまなお成果があがっていないのが実情である。日本の教科書内容は、科目毎に専門化されすぎ、低学年から国際性を養う配慮に乏しい。各教科書へもっと国際性を認識できるような内容を入れるべきである。
4、権利・自己主張のみ強調する傾向を排し、楯の半面としての和合性・協調性・義務感を養成するよう改めるべきである。
中学校の公民教科書主要7社の教科書を見ると、権利に関する記述はそれぞれ20頁以上もあるのに対し、義務に関する記述はたった数行程度にすぎない。こうしたことが国民に、自分の気の赴くまま勝手な言動をなすことが権利であるかのように思い違いをさせ、自己中心的・独善的観念に支配された結果、毎日の報道に現れているような冷酷殺人・誘拐などの異常事件を続発せしめる大きな原因となっている。
こうした傾向を是正するためには、権利と義務は本来楯の両面なのであるから、権利を説く場合には、その反面としての例えば、家族との和合性、社会との協調性、国家への義務感なども、併せ記載し教えるべきである。
5、「人間性重視の教育」を見直し、道徳指導を徹底強化すべきである。
「日本人としての自覚」「開かれた日本人」を育成するとともに「思いやりの心」を育て、心身ともに健全な責任感の強い日本人を育てなければならない。
そのためには、人間の真の在り方を認識させ、善性を伸ばし豊かな心を育てる情操教育・道徳教育をより重視しなければならない。このために、いま形骸化されている「道徳の時間」を活用・充実するとともに、教育活動全般を通して、『道徳教育』を意図的計画的に強力に推進しなければならない。それには、「道徳」を教科として評価・評定するとともに、道徳教科書の作成と使用を義務づけるよう、指導要領、学校教育法施行規則の第二十四条と第五十一二条の条文を、改正すべきである。
6、祖先・先人の偉業を称え感謝する内容を盛り込む。
個人も親や先祖があってこそ存在する。国も先人・先祖の業績の上に成り立っているわけであるから、教科書に先人の業績を正しく評価し顕彰することは、教育上必要なことであるし、青少年に誇りと自信を持たせることになる。
7、防衛力を持つことの現実性の認識と愛国心教育を採り上げるべきである。
武力を持たない世界は理想ではあるが、国際情勢からみて現実的ではない。自分の国をみずからの手で守る気概のない国が滅びることは歴史の示す通りである。日本人も早く敗戦ボケから立ち直るべきであり、正しい愛国心教育を施すことが必要である。
二、教科書検定制度の改革
1、教科書検定制度の厳格化。
現行の教科書偏向は早く是正すべきであり、そのため、検定基準を明確にするとともに検定者に健全な認識を持ったものを配すべきである。
2、教科書検定規則、検定基準、指導要領の抜本的改正。
現行の教科書が偏向した最大の原因は、昭和52年に(永井文相の時に)、指導要領、検定基準、検定規則が巧妙に改悪されたためである。したがって、これらの全体を早急に見直すとともに、巷間、一部に主張されている認定制度は、教育現場に混乱を招くだけであるので、これを排し、検定制度そのものの厳格化を図り、より正しい教科書を世に出すべきである。なお、指導要領および検定基準は「文部省告示」であり、検定規則は「文部省の省令」であることから、文部大臣の決断により、早急に改正されるよう期待する。
3、採択制度の抜本的改正。
現行の教科書採択は、偏向した現場教員の意向に基づくこと極めて強い仕組みになっている。
そのため、教科書会社は営利に走るの余り、特定の思想を持った者に執筆を依頼しがちである。
こうした傾向を排除するため、教科書採択権は、都道府県の教育委員会に持たせるべきである。
4、教科書法の制定。
上述のことを、公正・的確に実現するため、教科書法を制定することが望まれる。
三、近隣諸国との友好を保つための教科書の在り方
1、関係閣僚による協議機関の設置。
教科書の作成は、本来内政事項であるから、「外圧」または「外圧の恐れがある力」が我が国へ加えられようとするときは、「教科書問題に関し関係閣僚が協議するための機関」を設置して、閣僚間の意志を統一する。また、国連憲章をはじめ日本と他国間の条約に内政不干渉の原則がうたわれていることを、外国と相互に確認する。
2、関係諸外国との連絡機関の設置。
政府または民間の実務者レベルで「教科書問題に関し外国と連絡する機関」を適宜に設ける。
これにより、国際間に起きた具体的事件を出来るだけ正しくかつ客観的に、児童・生徒の発達段階に応じて教科書に記載する研究・調整を行い、また、国益の違いから起こってくる歴史観の相違を、相手の立場や心情に立って考え「互いに認めあう心」が、長期的友好関係を築く基礎であることを確認し合うことが必要である。
四、学習指導要領の改訂について
1、学習指導要領(以下要領という)の全般的に改訂が必要である。
上述の教科書に関する広範な見直しに伴い、要領も全般的な見直しが必要である。
特に、日本の文化遺産や歴史の良さを発見させ、国際的視野を広めさせるとともに日本の伝統を重んじ、日本人の自覚と誇りを持たせることが大切である。
2、「聞かれた愛国心教育」を重視すべきである。
イ、国民の安全と幸福は、自国が他国に侵略されてはありえない。わが国の平和と安全を守るため、防衛心・愛国心を持つことは独立国として当然のことである。ただ、その愛国心は、自国のみ尊しとする偏狭なものではなく、「世界の中の日本人」としての自覚に立ち、文化的にも 経済的にも世界平和に貢献する、いわば「聞かれた愛国心」教育であるべきである。また、それに関連して、例えば、次の点を要領に取り入れるべきである。
ロ、小学校では、建国神話を分かりやすく美しく記述し、中学校・高等学校では、古典の中から神話を十分味あわせるとともに、外国の神話と比較して、わが国の神話のよさを発見させるべきである。
ハ、小学校・中学校の国語教科書に、児童・生徒の発達段階に応じ、国旗「日の丸」の象徴する意味、ならびに国歌「君が代」の正しい意味を記載するとともに、要領においても指辱を徹底させること。
ニ、小学校社会科は、日本の歴史伝統を否定的に記述し、人物の取り扱いをはじめとして偏向的傾向が強い。小学校の歴史分野は、日本古来からの文化遺産と、それを創造してきた「祖先の生き方」を積極的に取り入れるべきである。
中学校・高等学校の歴史分野では、わが国の伝統・特質・文化の良さを達んで取り入れ、国民としての誇りと自覚を持たせるよう記述すべきである。
ホ、小学校の「図工」、中学校・高等学校の「美術」においては、鑑賞教材として、わが国の国土の美しさを描いた作品を、日本画を含めて提示すべきである。
3、国旗「日の丸」国歌「君が代」について、はっきりと指導すべきである。
国旗・国歌を大切にすることは、「世界の常識」であることからして、各教科領域間の密接な連関をはかり、全教育活動において、国旗「日の丸」国歌「君が代」を大切にする心を育成するよう、以下の点を検討すべきである。
すなわち、
イ、小学校・中学校・高等学校の要領の「特別活動」の中の「指導計画の作成と内容の取り扱い」の個所に「国旗を掲揚し国歌を斉唱することが望ましい」とあるが、この「望ましい」を削除して、「…斉唱する」とする。
ロ、小学校の「音楽」には、すでに指導すべき事項になっている国歌「君が代」の他に、童歌(わらべうた)、子守歌、民謡なども取り入れるべきである。
ハ、中学校の「各教科」の「音楽」には、国歌に関する記載が全くないので、「君が代」を各学年を通じて指導させるようにし、また、特別活動の指導と密接な関連を持たせるようにすべきである。
以上の諸点につき、要請いたす次第であります。