安全保障部会作成第5号・政府宛提出要請書11本目 昭和58年3月提出
防衛問題につき積極的姿勢を堅持して頂きたき要請

【要請書全文】


      要 請 の 趣 旨

 中曾根総理大臣が、御就任以来、防衛政策に積極的な姿勢を示されていることは、誠に、心強く、私どもは、これを全面的に支持するものである。
 野党やマスコミの中には、総理の防衛姿勢を激しく攻撃するものもいる。しかし、彼らは、言葉尻をとらえたり、あるいは微視的・短絡的な発想に立つもので、到底正しい認識とは言えないので、総理におかれては、そうした攻撃に後退されることなく、引き続き御信念をもって防衛政策を遂行して頂きたく、ここに要請申し上げる次第である。
 なお、以下に、総理の御発言を擁護し、一部の野党やマスコミに対する反論を掲げる。


      要 請 の 理 由

1、反対派は、総理が訪米中に発言された、運命共同体とか三海峡封鎖、あるいは不沈空母といった言葉に反発しているが、日本は西側の一員であり、アメリカとは日米安保条約によって結ばれている以上、両国が運命共同体であることは当然であり、そうではないとする意見こそ、国際常識や条約の意義を解さない甘い考えである。また、三海峡封鎖も同様の立論から、有事の際などに海峡を封鎖するのは独立国として当然の措置であり、不沈空母という発言も、まさに「自分の国は自らの手で守る」という、国防に対する気概を示されたものと解せられ、これらの表現は、厳しい世界情勢の現実を直視し、日米間のきずなを一層強めなければならないこの時機に、国民に正しい認識を持ってもらう意味でも大きな効果があった。

2、一部のマスコミや野党、また与党の一部にも、最近のマスコミの世論調査での中曾根内閣の支持率低下を、総理のそうした姿勢にあるとするものがあるが、この種の世論調査では、設問の仕方次第でかなり答えが違ってくるし、また、これは、歴代内閣が、おおむね事勿れ主義で、防衛問題など重要政策を避けて通り、一般国民もこれに慣らされてきた結果、今回総理の当然の御発言が多少強く響いたという一時的現象にすぎず、総理の御発言によって、「目を覚まされた思いである」とする国民も多いので、総理も、一時的現象に捉われずに、信念をもって防衛政策を推進していただきたい。

3、反対派は、総理の姿勢は、アメリカの戦略に巻き込まれ、わが国を危険ならしめるといういわゆる「巻き込まれ」論を展開しているが、これも現実を知らない浅薄な考え方である。
 けだし、戦後の経過を見ても、米ソ両大国は、その膨大な核戦力の保有が、逆に抑止力となって、その結果、もっとも起こり難いのが米ソ戦争であるといえる反面、これまで、ソ連から直接・間接に侵略された国のほとんどは、アメリカとの共通の戦略を持たなかった国々であり、アメリカと緊密な同盟関係を持つ国々に対しては、ソ連の武力行使は行われていない、という事実に注目しなければならない。

4、かくして、反対論者がいう、アメリカと緊密な関係を持つとアメリカの世界戦略に巻き込まれて危険だという論理は、明らかに虚構であり、逆に、アメリカと強いきずなで結ばれていることこそ、国の存立を保つ基本というべきである。また、日本は、いたずらにアメリカの世界戦略に巻き込まれることをおそれるのではなく、総理も「不沈空母」と表現されたように、日本の地政学的・戦略的位置を考えつつ、同盟国アメリカの戦争抑止力をむしろ利用して、わが国の独立と平和と安全とを守るべく、独白の戦略を考えるべきである。

5、なお、最近、一部の野党やマスコミの攻勢により、総理の防衛に対するお考えが後退したと報ずる向きもあるが、一旦提起した政策を後退させることは、マイナスが極めて大きく、かえって国民の不信感を招くばかりか、日米間の防衛摩擦を高めることになり、国際信用を失わせる結果ともなるので、総理におかれては、断固、防衛に対する当初の姿勢を堅持して下さるようお願いする。
 以上の論拠から、私どもは、総理の防衛に関する御発言は正しい、と考えており、多くの声なき一般国民も、総理の姿勢に共鳴し、支持しているので、引続き御信念をもって、防衛政策を推進下さるよう、ここにお願い申し上げる次第である。

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