教育部会作成要請書第2本目、政府宛提出要請書2本目、昭和56年5月18日提出
教育改革の提言

【要請書全文】

前文  教育は国家百年の大計であり、一国の命運は青少年の健全なる活力によって定まる。今日の日本の教育は、真に国家社会の形成者としての立派な人間を育てる使命を果しているであろうか。
 戦後日本の素早い復興と、その後のめざましい経済発展は、わが国を世界における経済大国に躍進させた。しかし、その反面、占領政策のいき過ぎとも相まって、国家意識の喪失、刹那的利己主義の世相の現出、健全な家庭生活の崩壊等を招来した。
 戦後の日本の教育についても、価値観の多様化から教育理念の拠り所を失い混迷を招いた。特に、魂の教育を忘れた一部教師の無法行為は、教育への信頼を大きく失墜させるに至った。
 青少年の非行・暴力問題にしても、最近ますます低年令化、悪質化し、社会問題となっているが、これはいわば教育の荒廃現象の鋭い告発ともいうべく、戦後教育の矛盾が噴き出したものである。
 今や、戦後教育を根本的に見直すと共に、八十年代から二十一世紀を展望し、日本民族の将来を見通したわが国の教育の構築を始めなければ、悔を千載に残しかねない。
 われ等はこの機に当たり、現在の教育上の主な問題点をとり上げ、国民教育の徹底、教育行政・学校制度の改善、教師の資質向上、教育内容の充実、教育上の弊害の排除等の諸問題にとり組み、その解決を図ることが重要であると考える。
 これ等の問題点の中から、早急に推進すべき事項をとり敢えず「教育改革の提言(その1)」としてここに提起する。

 一、祝日・儀式等での国旗掲揚・国歌斉唱

 戦後目本の国民意識の低下は甚だしく、国旗・団歌への関心が薄れ、これについて相反する考え方がまかり通っていることは、諸外国にも例のない風潮で、国家の根幹にも関わる憂うべきことである。
 国民としての自覚や連帯感は、学校教育の場だけではなく、家庭および地域ぐるみの環境の中で醸成される。よって、祝日には公共機関はもとより国民も各戸ごとに国旗を掲揚する慣習を復興し、儀式等での国旗掲揚、国歌斉唱を励行して、国民意識を高揚すべきである。

 二、教育委員(準)公選問題の対策を立てる

 昭和五十六年二月実施の東京都中野区における郵便投票による教育委員の準公選は、国民の遵法精神をそこなうものである。教育委員の公選が実施された場合、三十一年までの公選時のように特定の政治グループ、組合などの選挙運動が効を奏し、偏った傾向の教育委員が多数出現し、教育の中立性がそこなわれる恐れが多分にある。

 三、違法スト参加者処分を厳正にする

 教育公務員の違法ストに対する処分の内容や対象は、各地域によりばらつきがある。これに加えて、折角処分をし筋を通しても、組合側が裁判等で処分撤回を迫ると時期をみて和解をし、処分取消し、実損回復等が行なわれ、教員組合も被処分者に対する救援費の支払が著しく軽減され不当な利益を得ることになる。これが教育現場を不毛にする教員ストを絶やせない大きな原因となっている。従って違法ストに対しては厳重な処分を貫くべきである。

 四、教員の資質向上について

 児童・生徒の非行暴力は、学校・家庭そして社会へと大きな広がりをみせている。それは学校教育環境の最大の地位を占める教師が、労働者となり、サラリーマン化して権利主張に明け暮れ、違法行為を繰返して授業を阻害し、道徳教育を怠って魂の触れ合う教育を忘れた当然の結末である。従って、誠実・勤勉な聖職観に溢れた教師の養成こそ刻下の緊要事であり、教師の資質向上のための研修を充実し、資格の認定を厳正に行い、その合格者の待遇を改善し、勤務評定に基づく任用・昇給・特別昇給制度等を確立し、以て有能教員の優遇措置を図らねばならない。

 五、管理職の資質向上について

 学校現場における、組合運動に名を借りた、組合活動家の無法な祝祭は、校長の権限を無視し、職員会議は最高機関であると称して、教育の中正を乱し、生徒指導の責務を怠り、これ等が教育荒廃の一因となっている。
 しかし、反面、教育現場を正しく指導し、管理運営する責任をもつ校長・教頭の力量と迫力不足も亦反省すべきであり、管理職自らも姿勢を正し、その資質向上に努力すべきである。また、行政の面から、教員異動に際しての校長具申権を確立し、異動カードに職権記入の方途を開く等、行政上の管理職の権限を明確にすべきである。

 六、生涯教育のための人材活用制度を検討する

 小・中・高校の教員等の定年退職後は家庭教育相談員、青少年集団合宿訓練制度などを設けて、家庭教育・社会教育・学校教育の三位一体の分野で、積極的にその経験を活用すべきである。

 七、教科書問題を検討してその改善を図る

 国民が公正なものと信頼していた文部省検定教科書に、意外にも問題点が多いということは驚くべきことである。児童、生徒の心や物の考え方の形成に直接影響を与える教科書は一日も忽せにできない重大問題である。
 特に、国語・国史・公民・道徳教育等の欠陥を是正して、伝統的精神・愛国心を高揚し、国を守る気概を育成すべきである。早急に、現行教科書・指導書の不適正部分を指摘して世論を喚起するとともに、適正な副読本及び教師用書の作成・活用を図るべきである。

 八、道徳教育の充実徹底をはかる

 「修身、斉家、治国、平天下」これは世界平和の大道に通じる。占領政策はこの身を修めることすら禁じた。人間としての道、社会人としての良識を注意すべき道徳教育の特設が学習指導要領に示されているが、本来の目的を無視して行なわない教職員が多数存在する。速やかに道徳教育の実態を厳重に再点検し、その充実、徹底を図るべきである。

 九、良識教職員による正常な教職員団体組織の拡大

 敗戦後三十五年、わが国の経済成長は、世紀の奇跡とまでいわれているが、精神面での混乱、教育界の荒廃、特に青少年の無気力化退廃化は目を覆うばかりである。
 その原因は、国家目的の不明確さ、それに教育現場における、教師の使命よりも階級性を重視する労働者教師集団の横行によることは、も早や明らかである。
 これらを正し、真の日本人教育の推進に立ち上がっている良識ある教職員組織の充実発展に寄与すべきである。

 十、良識ある父母の全国組織の拡大

 無法な労働者教師集団の横暴に耐えかねて立ち上がった父母。国民の教育正常化を願う組織の運動の輪が拡がりつつある。不正常な教育を国民の側より監視し、正常な教育の推進に努めるこの国民的教育大運動を、全国津々浦々にまで拡げることこそ目下の急務である。

 十一、マスコミ対策、出版・放送の倫理を正す

 テレビ・ラジオ番組や週刊誌等に、甚だしく良風美俗を破壊し、人間性を否定するものがあり、一般新聞や雑誌等の一方的な報道や論調・解説も目に余るものが多い。これらは、青少年に怖るべき悪影響を与えているので、マスコミの自粛を促し、世の注意を喚起すべきである。

 〈追記〉
 この「教育改革の提言」(その1)は、当協和協会の正式意見書の形を整え、去る五月二十九日、本会の会員である各教育団体の代表者ならびにその他の会員有志が集まって、首相官邸を訪問し、(総理、官房長官は国会出席中で面会できなかったが)総理秘書官、内閣官房長官秘書官にお会いし、応接室にて充分説明の上、手交し、それぞれから「確かに承りました。伝達いたします」との確答を得た。
 また、続いて総理府をも訪問し、総務長官秘書官にも手交・説明したほか、当日と六月五日の両日、院内の自民党幹事長座、同政務調査会長座、総務会長座を訪ねて、提出要請し、さらに、議員会館に、文部大臣、文教委員会の理事クラス、ならびに自民党・民社党の文教関係幹部クラスの部屋、約六十ヵ所を歴訪して、手交・説明し、この提言が国政へ反映されるよう要請した。

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