平成27年7月27日(月) |
十年目を迎えた自衛隊の統合運用体制! |
先崎一先生
(まっさき はじめ)
元陸上幕僚長・統合幕僚会議議長・初代統合幕僚長
概要
陸海空の統合運用が行なえるようになったのは、統合幕僚長が誕生した平成18年からである。私がその初代統合幕僚長となった。自衛隊発足から実に50年。これまでも統合幕僚会議議長というポストはあったが、調整役にすぎず、陸海空、それぞれ別々の運用体制であった。
統合幕僚長実現に大きく後押ししたのが、中国の海洋進出に対する危機意識である。陸海空を統合しなければ東シナ海を守れないと多くの人が感じていたからだ。
日中の境界に対する見解は異なっている。日本は、200海里までの排他的経済水域が重なり合う部分について、中間線を基に確定するべきだと主張しているが、中国側は、大陸棚が沖縄トラフまで自然延長しているのでそこまでが中国の海域だとしている。つまり日中の両方が「自国の海域」と主張している領域が存在してしまっているわけだ。
また、平成25年には、突然中国が、尖閣諸島、沖縄県石垣市上空を含む東シナ海の空域に防空識別圏を設定したと発表した。これは日本の防空識別圏と重なる部分がある。この空域に中国機が度々侵入してくるため、スクランブルが増えた。去年は943回もスクランブルがあったが、これは30年前に944回あったときに次ぐ回数であり、この半数が中国機で、残りの半分がロシアである。
統合幕僚長のポストができたことにより、日米のカウンターパートが定まった。統合幕僚長の平時のカウンターパートは、横田にある在日米軍司令部の指令、有事のカウンターパートは、ハワイにある米国太平洋司令部の指令である。カウンターパートが定まったことにより、格段に協力関係が高まった。日米の幕僚間同士がテレビ電話で頻繁に意見交換するようになっている。
私が在任中の平成18年に北朝鮮の弾道ミサイル発射(7発)次案が発生した。北朝鮮北東部の舞水端里(ムスダンリ)から、スカッド、ノドン、テポドン2号の弾道ミサイル計7発が発射され、日本海に落ちた。この2か月前には、米軍から連絡が入っていた。アメリカの偵察衛星の画像データの分析から分かっていたのだ。アメリカは、ミサイル追跡艦のオブザヴェーション・アイランドと、弾道ミサイルの光学/電子情報収集機コブラボールを投入して、情報収集に努めた。また、いざ発射されたときに、これを撃ち落とすため、日米ともイージス艦を日本海に1隻ずつ派遣、パック3(パトリオット)も配備した。
国家安全保障会議(日本版NSC)が発足し、首相官邸を中心に外交・安全保障に関する迅速な情報収集や重要な政策決定が行われるようになった。自衛隊の幹部も毎週のように官邸に行き、意見交換を行っている。
今後海外派遣も増えるだろう。そのときに重要になってくるのは地球規模の情報収集能力だ。この能力も強化してほしい。また、海外で自衛隊員が死亡した場合は事故扱いとなってしまう。これでは隊員は浮かばれない。この問題はなんとかしてほしい。派遣命令を出すのは政治家だ。日本としては、こういう状態にしたいんだ。こうしたいんだ。という明確なビジョンを示した上で隊員たちを送り出してほしい。