平成27年6月30日(火) |
アベノミクスとリスク・オン経済! |
松元崇先生
内閣府前事務次官、元内閣府政策統括官・
同大臣官房長
概要
リスク・オン経済とは、リスクをとりながらもハイリターンな金融商品にマネーが動く経済のこと。逆にリスク・オフのときは経済が安定している国の国債などが買われる。ベルリンの壁が崩壊し、社会主義の呪縛が取り除かれて以降、リスク・オン経済の時代となり、金融資産がどんどん増えている。1980年に、世界の金融資産残高はGDPの1.1倍だったのが、2010年には、3.4倍にまでなっている。金余りの状態である。その結果、発展途上国に金が流れるようになり、途上国の発展を支えている。
ベルリンの壁崩壊以前は先進国が生産のほとんどを行っていて、慢性的な供給不足だったため、デフレの心配はなかった。ところが途上国が盛んに生産をはじめて、供給過剰からデフレの心配がでてきた。しかし現実にデフレになったのは日本だけであった。契機となったのが、リーマンショックだ。当時、日本への影響は少ないだろうと多くの経済学者が言い、日本では金融緩和は効かない、もし行なえば出口戦略がたいへんだ、などと騒ぎ立てた。欧米では大胆な金融緩和を行ったのに、日銀の金融緩和は小規模なものにとどまった。その結果どうなったか? 実力とかけ離れた円高を招いた。工場が国内から消えていき、仕事もなくなった。GDPも減少した。1997年に日本のGDPの世界シェアは14%だったのが、2012年には8.2%になった。減少率は41.2%と大きなものであった。
一年半前に安倍首相がアベノミクスを発表したとき、多くの学者はプラシーボ(偽薬)にすぎないといった。しかし、実際には実質GDPは累積2.4%成長、株価は+104%となって18年前のITバブルの株価を上回った。有効求人倍率は23年ぶりの高水準となり、賃金の平均月額は過去15年で最高水準となっている。
日本に必要なのは6重苦からの脱却である。6重苦とは、日本の産業が抱える6つの要因であり、(1)超円高、(2)法人税の実効税率の高さ、(3)自由貿易協定の遅れ、(4)電力価格問題、(5)労働規制の厳しさ、(6)環境規制の厳しさ、である。アベノミクスでは、(1)は着手済み、(2)(3)は進行中、そして(4)〜(6)は手つかずのままである。手つかずの部分の解決が今後の日本の成長戦略には欠かせない。