平成19年12月1日(金) |
国益と外交世界システムと日本の戦略 |
小原雅博先生
外務省大臣官房参事官兼アジァ太洋州局〔南部アジア部〕担当講話概要
冷戦が終結し、世界情勢が大きく変化し、グローバル化が進んでいる昨今、日本の「国益」について、議論がされていない。国益という言葉について、正確に中身を確定し、これを実現していくことが、外交上重要課題といえる。国益の概念は、「国家を構成する国民の利益」であり、これを追求すること。そして「国家の生存と安全を維持する」ことであると考える。しかし、国家間のパワーは均一ではないため、自国の国益を追求するあまり、戦争状態に陥ることがある。このように国益と国家の持つパワーは密接な関係にある。また、国益の前提としての国家の生存と安全を考えるとき、日本にとっては何が重要かは、国民各々によって違い、多様である。このようなことから、国益を考える時には、情緒的なものは排除し、全体の利益、持続性のあるもの、直接利益を及ぼすもの、国際社会の論理と一致するものであることが条件となる。また国家の本質を考えたとき、道徳性、人間の行動の基準となるものである「道義」は、国益とも密接な関係にあり、国家行動や国家の本質というテーマを考える時にも、道義の果たす役割は大きく、外交の理念にも取り入れられている。アメリカは、国連の決議が自国の国益に反することから、度々道義を無視し、結果湾岸戦争等、国家パワーを優先しているが、道義を重視することにより、国家パワーによる国益を制御する役割を果たすことにもなる。しかし道義の概念が、しばしば主観的であるため、個人的な感情を持ち込まず、しっかりと考えてなくてはならない。冷戦終結後、国家間の紛争が減り、国益の概念が「国際益」「世界益」へと変化している。世界の益々の一体化によって、他国からの戦争への脅威から、核拡散、テロへの安全性、地球環境問題等、世界的に考えなければならない問題が多い。このような情勢の変化を踏まえて、外交の場においても、国家の枠を飛び越えた国際益を考え、「ソフトパワーjを磨くことが重要となる。自国の国益だけに捉われず、国家同士がともに幸せになる「win−win」の関係を築くことが、国際社会においては国家として信頼を得、良き外交関係を保つことが出来る国という評価を得ることにもなると考えると、締めくくられました。